松澤 龍一
(SATCHMO/WHAT A WONDERFUL WORLD / VERVE)CDより |
ジャズが生まれたのは、19世紀の終わりから20世紀の初め、ニューオリンズ近辺と言われている。現在もこのジャズと言う音楽様式が生きていると仮定しても、ジャズはたかだか100年ほどの歴史しか持たないものと言える。この100年間で、音楽を記録しておく技術は、レコード、テープ、CD、DVDと画期的な進歩を遂げた。従って、我々は、100年にわたるある音楽形態の変遷を濃密に追体験できる幸運に恵まれている。
ルイ・アームストロング、通称サッチモはジャズ史上最初にあらわれたスターであり、ジャズだけでなくショービジネスでも大きな成功を遂げたエンターテイナーである。彼のジャズプレイヤーとしての絶頂期は1920年代の後半で、この頃の録音が数多く残されており、ジャズが音楽として成立した頃の演奏を知ることができる。
The Essence of Louis Armstrong (CBS Sony 30DP5034)には輝かしいまでのサッチモのトランペットが当時としては鮮明な録音のもとで聴くことができる。これには泣かされる。テクニックとか音楽性とかを通り越しその奥のブルースが生で訴えてくる。これぞジャズである。そう言えば、サッチモはジャズの最初のスタイリストであった。皆がサッチモのように演奏した。アール・ハインズはサッチモのように弾き、コールマン・ホーキンスはサッチモのように吹いた。
次のスタイリストは数10年後にカンサスシティに現れる天才、チャーリー・パーカーを待たねばならない。極論を言えばジャズはその100年余りの歴史の中で、サッチモとパーカーと言う二人のスタイリストを輩出したに過ぎないのではないか。でも、これで充分である。
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追加掲載(120104)
若き日のサッチモ、唄もトランペットも冴えている。