2011年3月6日日曜日

私のジャズ(12)

そっくりさん
松澤 龍一

MOODY  MARILYN MOORE
(Bethlehem COCY-9938) CD












 またビリー・ホリデイの話。ビリー・ホリデイと言う偉大な歌手、アメリカでは、自伝が発刊されたり、映画が作られたりと有名だが、本当かなとずっと疑っている。今までに私が会ったアメリカ人でビリー・ホリデイに関心のある人は皆無に等しかった。中には全く知らないと言う人もいた。意外と一般の人には名前がそれほど浸透していないのかも知れない。ところが、歌をやる人、特にロック、ジャズ系の歌手でビリー・ホリデイを知らない人は、まずいないであろう。フランク・シナトラを始めとして、多くの歌手が一番影響を受けた歌手としてビリー・ホリデイの名前を挙げている。

この MARILYN MOORE と言う女性歌手、ビリー・ホリデイの影響を強く受けていると言うより、ビリー・ホリデイそのもの、そっくりさんなのである。個性を重んじるアメリカのショー・ビジネス界でよくぞここまで真似できたと感心する。彼女が遺した唯一のアルバム MOODY を聴いてみる。思わず笑ってしまう。誰が聴いてもビリー・ホリデイだ。CDの解説書によれば、彼女は黒人ではない。チェロキー・インディアンの血が混ざっているそうだ。1931年生まれと言うので、おそらく生きているだろう。どこかでまだ唄っているかも知れない。CDを聴き進むにつれて、どこか違う感じがしてくる。声の艶とか張りが違う。終わり近くのビリー・ホリデイの持ち歌である I CRIED FOR YOU になるとまぎれもなく違う。こんな生硬な高音はビリー・ホリデイに無かった。 これほど完璧なそっくりさんが生まれ、なおかつ、その録音が残されていること自体ビリー・ホリデイの偉大さ、アメリカの大衆音楽に遺した影響力を物語っているのかも知れない。

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追加掲載(120104)
えっ、これがビリー・ホリデイじゃないの?