2011年3月6日日曜日

I LOVE 俳句 Ⅰ-(9)

水口 圭子


これ以上待つと昼顔になってしまう  池田澄子
 

「待つ」というのは、初めはうきうきと楽しい気分だが、そのうち、何時までという先が見えないと、不安が生まれ相手への不信も絡みついて来る。いくら待っていても、少しも状況が変わらないと、焦りや苛立ちから待つのを止めようかと思ったり、もう少し待ってみようかという思いが交錯し、複雑な心境に陥る。

掲句は、そんな待たされている時の心境を表現。主人公は、待ち続けると「昼顔になってしまう」というのだから、女性つまり作者自身であろう。そして、その思いの先は何も言っていない、このまま「昼顔になって」も待ち続けるのか、何か行動を起こすのか。しかし、この句の口語表記から受ける印象はとても明るくて、じっと耐え忍んで待つ女性像は浮かび上がって来ない。多分何かする。たとえどんな結果が待っていようとも、しっかりと現実を受け入れ、前進する潔さ、自分の行き先をきちんと見極められる聡明さを持ち合わせ、逞しく背筋のぴんとした佇まいが彷彿として来る。

先日久しぶりに映画「ひまわり」をTVで観た。ソフィア・ローレン演じる主人公のイタリア女性が、ロシア戦線に従軍したまま行方の分からない夫を探しに行って出合った現実。やっと見つけた夫は、雪の荒野で倒れ記憶喪失になり、助けてくれたロシア女性と暮らしていたこと。

勿論この映画のテーマは、戦争のもたらす悲劇だが、夫の優柔不断さに比べ、主人公の「待たない」決断をする潔さが心地良い。大きな瞳に哀しみをたたえつつ、ミラノ駅で夫を見送るソフィア・ローレンの美しさは言うまでもない。

戦争からの連想で、待つしかなくて、そして決して報われぬ意の、ぞっとするほど哀
しい一句を挙げておきたい。

    英霊が永遠に待つ除隊かな     谷山花猿